コーラス(見たのは04/22)

とても穏やかできれいな映画だった。ストーリーに圧倒的な山場があるわけではないし、題名通りコーラスを生かすためにBGMも控えめ。それなのに確かにそこにドラマがあった。窓から紙飛行機が飛んできたとき、本当にすてきな気持ちになった。
主人公の先生の笑顔は本当に暖かかった。禿頭に反射した光が暖かく少年達を包み、銀幕に映る全てが子供への愛で照らされていた。


と言った舌の根も渇かないうちに、梨本勝ばりに恐縮だけど、この映画はあまりに大人たちの倫理や価値観で構成されていて、その点は正直見ていてつらかった。子供への愛が一方的な押し売りになってしまっていた。子供側の視線や思考が掘り下げられていなかったせいで、ストーリーにあと一歩説得力が欠けていたように思うのだ。この映画で、子供達は常に語られる対象であって語りの主体ではなかった。
いたずらばかりしているけど、コーラスを通じて徐々に素直になっていく子供達。悪ガキだけども実は繊細で素直、つまり、表面上の「ワル」と内面の「素直さ」という二面性。この両輪によって子供達の描写は深められ、彼らは、理解不能なアンファンテリブルなどではない、愛すべきキャラクター達としての魅力を勝ち得ていた。マジよだれが出るくらいかわいかった。でも、それはあくまで社会通念というか西洋のディシプリンにのっとったイメージとしての<子供>の描写なわけでつまり、大人の目線で見たイデアルな<子供>像が、現実の子供達に投影されていたにすぎない。言ってみりゃ子供に<子供>っていうキャラクターのコスプレさせてるみたいなもんだ。


何度でも言うけど、子供達はかわいい。素直にかわいいんですよ。淡谷のり子先生でも10点いれる位にかわいい。子供達の描かれ方をこの映画の欠点としてとらえたり違和感を感じたりする奴なんてちゃんちゃらおかしくって、普通に考えたらこの<子供>コスプレは圧倒的な好意をもって受け取られるものだろう。
子供たち、まずは当然見た目がかわいい。監督の息子のちっちゃい子とか殺人的にやばい。かてて加えて投影される<子供>の像が、大人達の欲望の表れであるからこそ、本当にかわいい、いや、かわいらし過ぎる程にかわいらしい、っていうかイヤみ抜きでマジかわいいよフッフゥ〜♪ってなるくらいかわいい。見なきゃわかんないけどあれはやばい。


この映画は少年合唱団の映画だ。
少年合唱団について何も知らないくせにこの後の話の流れを無理矢理それっぽくするために堂々と知ったかすると、少年合唱団って、「規範を身につける子供」「汚れ無き魂」な感じだし、規律もすごく厳しいっていうし、つまりは少年合唱団って「大人の押しつけた<子供>のイメージを演じる/演じさせられている子供達」のイメージが強いんですよね。制服来てみんなで一列になって厳しい練習や規範に耐えてそれでも海外公演したい世界に愛と平和を主の声を届けたい!って思う声変わり前ボーイズ(声変わりしてるのもいるけど)がそんなにたくさんいるの?あれって、息子を団に入れる親にしてみりゃあ息子の感性を磨くとか人格を陶冶するとかの教育的効果を狙って、みたいな?そんなプラス面も多くあるんだろうけど、問題なのは客の視線ですよ。少年団を見てるお客さんの気持ちの中に、芸のできるかわいらしい犬を愛でてる的な感覚が無きにしもあらずじゃないんでしょうか。あら、あんなにちっちゃいのに凛としていて立派に歌ってぇ。かわいらしいわぁ。的なぁ〜。
僕は少なくとも心のどこかでそう感じているんだけど、そう感じるのは僕だけですか?あ、僕だけですか。


この映画で監督がやりたかったことって、大人にとっての理想の<子供>達を描くことだったんじゃないだろうか。少年合唱団がモチーフに選ばれているのは考え尽くされた必然なのではないだろうか。<子供>を子供に投射するという構造を描こうとするとき、その構造のアナロジーとして少年合唱団はあまりに完璧過ぎだ。少年合唱団の思想がすでに「見目かわいらしい存在に、大人からの<欲望>をさらに投射する」という構造を持っているのだから。理想の<子供>像を描くのにこれほど適した団体も無いだろう。
舞台が1949年っていうのも、狙いすまされたものだ。<子供>の子供への投射がごく自然な価値観として認められている時代。戦争も終わって適度にリベラル。現代を舞台にしたらそんなこと絶対できない。
さらに、<欲望>を投射する側にとって、少年合唱団の思想を適切に表現するに、自分たち以外の大人というか外部世界と子供達が接触をもっては困る。だからこその全寮制の学校だ。親への面会は許されていたけど、どの子も親の前では<良い子>という親の欲望を自身で演じていた。


長くなりすぎて書くの飽きました。
結論とかなくてぐだぐだになっちゃいました。
そんなこんなで結構怖い映画だと思いました。
あ、でも子供達はまじかわいかったです。。