萩本欽一

欽ちゃんが極楽とんぼ山本圭壱書類送検に伴って球団の解散を示唆、憐れ大将とんだとばっちり!みたいなことになってるけど、どう考えても欽ちゃん得してると思う。今や芸能界で「歴史上の人」「一つ前の地層の人」だったはずの欽ちゃんがワイドショーに向けて神妙な面持ちで発言するとどうだ、芸能界における「大物」という意味づけを、しかも「球団を失うことになった(なりそうな)悲劇の主人公」という文脈で示すことに成功しているではないか。同時代性をパーフェクトに欠いた物言いと喋り方を依然として携えながらに大御所オーラを再獲得、かてて加えてテレビの前の判官贔屓をも見方につける大金星。ほとんどミラクルと言えるんじゃないだろうか。


あと欽ちゃんのインタビューから「僕らが野球をやることを日本中が楽しみにしていた、夢を与えていた」「僕らが野球文化(の一翼)を担っていた」的な雰囲気を感じるんだけど、そこにものすごく違和感がある。僕は日本中に愛されているし、そんな僕が主催する球団を好きじゃない人なんていないはずだし、そもそも日本人はみんな野球が大好きなのさ!みたいな。欽ちゃんの背後に、彼の背後に「日本」「お茶の間」という名の十字架が見え隠れする。おいおい、誰も背負ってくれなんて頼んでないってそんな重たいもん。
野球が国民の娯楽だった時代、コント55号が日本中のお茶の間で愛されていた季節は遥か30年の昔だ。野球は今や数ある娯楽選択肢の一つに過ぎず、欽ちゃんももはや国民的スターではない。(野球が好き、欽ちゃんが好きっていう気持ちを非難したいわけじゃない。)


「欽ちゃんは悲劇のヒーロー」という物語を一方的かつ(僕にとってはかなり)歪んだ解釈でむりやり作り出そうとするワイドショー報道のあり方と、その神輿に勢い乗っかってしまう(というか最初から神輿があって当然だと思い込んでいる)欽ちゃんを見て何だか悲しくなった。
国民的スポーツ「野球」、日本中の人気者「萩本欽一」。そこで欽ちゃんの時計は針を止めたままなのではないか。まあ、ファミスタのフライ一つキャッチできなかったお前に悲しくなられたところで痛くも痒くもないよって話なんだけど、あのインタビューは聞いててすごく気持ち悪かった。