めまい

耳鼻科の試験終了を記念してU2はvertigo tourに行ってきた。本当は今日の朝tksnさんから急遽お誘いを受け、二つ返事で行きます行きます!だったので何を記念しているわけでもないのだけれどまさに目眩つながり、はるばる向かうはさいたまスーパーアリーナだ。
駅の改札を出た瞬間からさいたま新都心は欧米人で溢れかえっていた。満月の夜の蟹みたいなことになっていた。かねがね埼玉、ましてや平仮名で書く「さいたま」なんてダサ過ぎて、生きているだけでカッコいい欧米人の方には「見えないこと」になっているのだとばかり思っていたのだが、さすがに今日だけは違ったみたいだ。周辺に立ちこめるにおいがもはや西洋そのものだった。
なぜ坊主で痩せている白人さんは全員マイケル・スタイプに見えるのか、そしてなぜ坊主で太っている白人さんは全員pixiesの人に見えるのか、そんな思いに囚われながらビール片手に会場に入る。


何と言おうか、とにかく「世界一」と冠するにふさわしい堂々たる、かつ圧倒的なライブ。バカでかい会場なのに音響も映像も「さすがU2」とうなりたくなるすばらしい質だった。たった4人の「バンドサウンド」であそこまで表情を出せてパワーを込められて。ステージパフォーマンスも全然飾らないのにずっと華があったし、そしてボノはそれこそ目眩がするほどに歌が上手かった、いや上手いと言うと少し違って「凄みがあった」という感がある。声に「力がある」ってこういうことなんだな。
一撃の破壊力がもっとあるバンド他にもあるだろうけれど、ライブのクオリティという面では文句なく世界最高なのではないだろうか。


音だけでなく、メッセンジャーとしてのあり方もやはり超一級だったように思う。
ミュージシャンがライブに政治的なメッセージを盛り込むのが僕はあまり好きではない。one、you、loveといったシンプルな単語に伴う情感。個々人がそれぞれ生きる世界を彩る、多様でゆるやかでしなやかであたたかな、そして時に強烈で傲慢で欺瞞に満ちた、だかこそ輝かしく美しい「愛情」。そういった日々の暮らしの「身の丈」領域に宿る幸福を、音楽の感動をより糸にして世界の政治・経済状況へいきなり短絡させる。という今日のU2的なやり方は殊更苦手だ。
しかしあのステージを観てしまったら何も言えない。音楽で世界を変えられるかどうか僕にはわからないけれど、ボノの声には本気でそれを信じている人だけが持ちうる強い強い説得力があった。政治を語る必然(日々僕らが暮らす世界に直結するメッセージ)があった。ライブの途中でモニターに映し出された世界人権宣言という名の「祈り」は確かに僕の胸に響いた。


なんと贅沢な2時間だったのだろう、会場が異様に前だった(tksnさんありがとう!)からボノもエッジもアダムも10mの目の前にいた。*1
いやあU2をなめてた。間違いなく、彼らは世界最強のモンスター・バンドだ。一言、本当に、ただただ、良かった。感動が止まらない。今まで観てきたライブの中でも間違いなく五本の指三本の矢七人の侍四十人の盗賊だ。

*1:写真だと遠いけれど、花道を通ってすぐ近くまで来た!