睾丸無知

堅苦しい話は本来好むところではないものの、今日も真っ当な医学の話。Nobody can stop my 溢れ出る向学心、今夜限りで結構、どうか私のほとばしる医学への情熱にお付き合い願いたい。精巣(睾丸・キン玉)について考えてみたいのだ。


浅い理解なので嘘をついている可能性も非常に高いのだが、人間の睾丸は腎臓の近く(まあ雑に言えば腰の高さくらい)で発生し胎内での発育と共にグングンと降下、大移動の果てに体幹部からはみ出し陰嚢(ふくろ)に収まる。胎生期における、このセンチメートル単位の大冒険はゆくゆく睾丸で造られることになる精子にとって極めて重要な意味を持つ。精子は周囲の温度が高いと死んで(機能が低下して)しまうため、睾丸が体内に残っていると将来の生殖機能が大きく損なわれるのだ。体外に出、皺だらけの陰嚢(熱を放散しやすい)に包まれ人類の明るい未来のために質の良い精子を造る。僕たち私たちの睾丸は、いつか精子をかけるために生死を賭けた旅をするらしい。


ここに見る精巣下降メカニズムの全容は完全には解明されていないのだが、ただ一つ確かに言えるのは、ヒトの体は本当に、驚くほど良くできている。ということだ。正直生命科学にそれほどの関心を持たない私もこれには感嘆せざるを得ない。
この「睾丸下降ストーリー」は何もヒトに限った話ではないのではないか。猿もライオンも羊も馬もやはり睾丸が外部にはみ出た陰嚢に包まれている。同様の機序で睾丸があの場所に落ち着くのかどうかは分からないが、睾丸が「体内」からはみ出している動物にはすべからく「種の保存」という観点からみるに合目的的な何かが秘められている。そう考えるのは自然なことだろう。


ここで「初めて睾丸を外部においた動物」について考えてみたい。
生命発生の原初からあまねく動物たちが「睾丸下降」という複雑なメカニズムを獲得していたとは考えにくく、過去には睾丸が体内に残ったままの種も多くいたのではないか。睾丸下降が未だ市民権を得ていなかった、というかほんの限られたアナーキー極まりない動物のみが陰嚢を露出させるに過ぎなかった、あの時代。その時分においてむき出された陰嚢をまなざす周囲の視線はさぞかし冷たかったに違いない。


うっわマジで?あいつ袋むき出しだぜ!
何てはしたない!
ひょっとして、いやひょっとしてだけどさ…あいつ、あれカッコいいとか思ってんじゃない?
うわ寒っ!


ヒソヒソ、ヒソヒソ。多くの保守的な「睾丸タック・イン派」たちに厚顔無恥と後ろ指、いや、後ろヒヅメを指されながらも、確固たる信念を持ち動物界・哺乳類界の未来を真剣に案じた精巣解放軍。彼らこそまさに四つ足時代のサムライと呼ぶに相応しいのではないだろうか。


ともすれば猥褻物陳列のかどで逮捕・拘留された動物もいるかもしれない。ヒョウとかシマウマとかZEEBRAとか(ワルのイメージ)。
捕まったととして、あるいはキン玉を人前にさらけ出すことを厭わぬワル中のワルたる彼らだ。留置所でも確固たる信念で堂々たる態度、あぐらをかき腕をむんずと組み(この際骨格は無視します)言うんだな、「このキャン玉が哺乳類の明日を作るじゃい!」「悪そうな奴は大体友達!」。板垣死すとも精子は死せず。在りし日の自由睾丸民権運動、キン玉デモクラシーはまさに花の盛りである。
見せる睾丸始めました。そんな子孫繁栄にまつわる一大革命に思いを馳せるに、生命への畏敬はますます深まるのであった。めでたしめでたし。


そんなことを考えていたら30分が経過していたので、そそくさと試験会場を後にした。受かっているといいなあ。禁忌肢恐いなあ…。