マルハチ・フォーエバー

急に思い出した。マルハチだ。
小さな、そうだな、6才になるくらいまでかな、あの頃の僕は今の僕と同じく古代裸に住んでいた。現在の勤務先から自転車で10分もかからないあたりにその家はあった。先日ふと訪れてみるともう家は取り壊されていて、草花が雑然と生えた空き地が広がるばかり。けれど僕は間違いなくそこに住んでいた。幼稚園を抜けて、植物園を左手に見ながら進んだつきあたりに、黄土色のかわらをしいた小さな家がたっていた。


そうだ、マルハチだ。
古代裸に住んでいた時分の父と母は、近所の友人と連れだっていつもマルハチという飲み屋に行っていた。月に1度か2度か、もう記憶も曖昧でわからないけれど、個人経営のその小さな居酒屋の階段をあがった2階の座敷が何より好きだった。しょうゆで下味の付けられたからあげ、味の濃いめの野菜炒め、そして大人の気分で飲むコーラ。カラメルにうすく色づいた泡のたちのぼるグラスから、しあわせがいっぱいにあふれていた。父も母も、他のおとなたちも、みんなが満面に幸福の笑みをたたえていた。お酒の供される場の形態として僕が最も好きなのは昔も今も変わらず「居酒屋」なのだけれど、その原風景はすべてマルハチにあるのだと思う。世の中のしあわせを全部つめこんだ絵巻物を見ているような、僕にとってのストロベリーフィールズがそこにあった。


と書いたところで、Strawberry Fieldsのちゃんとした意味を知らないことに気が付いた。けれどまあいいや。ナッシング・イズ・リアル。だけれど僕は古代裸で育ったよ。マルハチ・フォーエバー。