びんぼう

ファミリーレストラン。家族でもいけるお手軽レストランなわけだけれど考えてみたらこの「ファミリー」って「お金がない」の婉曲な言い回しなんじゃないかと。星と「ザ・」の付きそうなれっきとしたレストランに行くのはお財布面でどうにもムリだから、でも「レストラン」ていう響きとか雰囲気は大切にしたいし定食屋じゃ生活のリアリティがありすぎるからというワガママ通り越して身のほど知らずな僕ら庶民のためにひねり出された修飾語が「ファミリー」。この言い回しの妙を産んだ人には惜しみなく天才の称号を贈呈したい。
宮中のやんごとなき階級にだけに許されるに過ぎなかった美食文化が<市民>に降りていってレストランになって、さらに下って雰囲気というか「レストラン」という音だけを輸入したファミリーレストランが誕生、今じゃついに底値を更新「ファミレス」に名前を変えて中高生のたまり場になっちゃった。元は宮殿なのに。


同じことがエコノミークラスのエコノミーにも言える。economyの原義はともかくとしてカタカナ語のエコノミー、あれって節約というよりはお値打ちお手頃感を多分にふくんだ言い回しな気がする(だって、ファーストやビジネスに乗るだけの経済力はあるけれど倹約のためエコノミーを選ぶ人なんてまずいなくて、基本みんなビジネスに乗るお金がない)のだけれど飛行機なんてそもそも選ばれた階級の人しか乗れなかったのがビジネスで使われるようになって、まだスペースあまっててただダブつかせておくのももったいないから「お金ないひと用」の席つくっちゃえ!のいきおいで気が付けば「エコノミー」が産声をあげる。お値打ちお手頃ですよ〜。あなたが選んだエコノミーという席はお金がない奴を収容する一番安いおこぼれあまりものの席。貧乏人は死ね!なわけなくて(んふふビックリしたでしょ?的に舌をエヘって出しながら)理性に照らしても納得のチョイスなんですよ〜。というおとぎ話。


ランクが一番低いことを示すことば、つまり「びんぼう人用の」でも「3等の」でも良いはずなのに雰囲気づくりにファミリー、エコノミー。そして今じゃすっかり「最低ランク」ってことが忘れ去られているというか意識の表面になかなか浮かんでこないというか、言葉のマジックはすごいなあ。