空気抵抗

気温の高まり。開襟のシーズンが今年もまたやってきた。やたらと襟のとがったシャツを第2ボタンまで開けビッときめている女性のことだ。かっこいいスーツに身を包みとかくいさぎよく、女性らしさをたたえながらも決して男には媚びません!といった風情で。ギリギリの胸元が作るVの字、それ自体が開き気味で少し大きめ襟をなびかせて濶歩する姿。あれここは日本じゃなかったっけ?と思わずにはいられぬ、インカ帝国の何かみたいなあのたたずまい。ああ、考えただけで胃もたれがしそうだ。


えてしてそのような「カッコE」系の女性は歩くのが速い。私が「白だけを踏んで渡ろ、いち、に、ウッヒー楽しぃ〜!」ともたもたしている脇を風の速さで通り抜けまたたきの間に横断歩道を渡り終えている。彼女の通ったあとにはいたずらに甘すぎはしないけれど自己主張、そんなにおい、意味としてあまりに「脂っこい」香水の残り香が咲く。ああ、考えただけで胃もたれがしそうだ。


ジャイロ。開かれた襟が空気抵抗をどうにかしているとしか思えない。あの歩く速度、生き急ぎ方は尋常なことではない。つまり開襟によって胸元になだれ込む気流がどうにかなめらかなって彼女に立ちはだかる物理的な空気抵抗、そして人生の摩擦係数が大きく減弱するのだろう。ジャイロ。知らないけれどジャイロボールって縫い目と回転の都合で空気抵抗がどうにかなって失速しにくいといった話を聞いたことがある。あの開襟、そこに透けて見えるライフスタイルを私は陰でジャイロと呼んでいる。あんなもん全員ジャイロだ、ジャイロおばさんのチーズケーキだ。言いたいだけだ。
こんなにもひどいことを言いながら胸元は大好き。つい目がそっちに、ね。しょうがないよね。というこのあたりに自分の割り切れなさも感じるそれはジャイロの季節。