セブンと花粉

予感に満ちた春めき具合において、今日の昼下がりと肩を並べるいっときもそうはない。駅前から撤去された自転車を引き取りにゆったりたっぷりの〜んびりと街を歩き、回収した自転車でびゅうと風およびすれ違う人波などを切ってはまん丸い光の粒を受け、けれどやはり夜になればいつも通りの寒が夜を包むような、そういった土曜日を憎からず思いもする今日この頃、はたして私の身体を支配する生化学のメカニズム、目のかゆみと鼻水がぜんっぜん止まらないの、いや、今の鼻のぐずぐず具合も込み込みで言うなら、じぇんっじぇんボバダバいの。ボベバゴバッダ…ではなくて、これは困った。ぐずぐず。


一昨年から私を悩ませるこの症状、決まってこの季節になると現れることなど鑑みるにおそらく、というか間違いなく花粉症。オー・ジーザス。病の我が身に降りかかるまでは「花粉症を患うのはいたたまれない遺伝子を抱えたかわいそうな人々」「木々の精子を浴びて粘膜がどうにかなっちゃうなんて、人間としての性的モラルが厳しく問われる局面」など優生主義的発言を繰り返していた私も、今やすっかりティッシュペーパーとの共生生活を余儀なくされている。
1型アレルギーだか肥満細胞だか、挙げ句の果てにはIgEだか炎症メディエーターだか知らねえけど人間様の科学力をナメてんじゃねえ!と鼻息も荒くムフンと意気込み、抗ヒスタミン作用を狙った内服薬を、つまり各種アルコールをいつもより多量に摂取してみたのだけれど効果の程はいつまでたっても一向に現れない。副作用だけは一丁前に抗ヒスタミン剤っぽさを十全に発揮し、服用を続ける程に春めいた眠気ばかりの増すばかり、八方塞がりとはまさにこのこと。


うるみがちの眼を使うしかないよなあ。どうせなら逆境を追い風にしたい。しよう。眼がしっとりしているとそれなりに魅力的に見えるとかよく言うし、愛され上手なウサギさんも年がら年中おめめが充血しているわけで、そう言えば花粉症を逆手にとって母性をくすぐるのが吉って年始に引いたおみくじにも書いてあったしな。書いてなかったけどな。
花粉症への受容的態度=包容力を誇示しつつ、セブンイレブンのおでんを肴に老獪な皮算用を練る私。


そう、セブンイレブンができたんだ。私の勤める病院には19時に戸を閉めるインコンビニエント極まりない売店「グリーンハウス」しか存在していなかったのだけれど、4年に1度の良き日すなわち2月29日をもって、4月から本格稼働する新病棟の一角にセブンイレブンが開店した。ばんざーい。新規オープンに際し値踏みも兼ねて足を踏み入れた清潔感溢れる店舗。ぴんぴかしたセブンの制服に身を包み堂々と接客にあたるのは昨日まで地下1階で煎餅を売っていたはずのグリーンハウスのおばちゃんだった。nanacoカードはいかがですか〜?! いやいや鞍替えが速すぎるってば。旧売店は3月10日まで営業しているにも関わらず驚異の変わり身術。彼氏が変わったら服の趣味変えます、そんな大黒摩季めいた価値観が病棟を覆っている。夏が、来る…。


セブンのメニューが夕飯ラインナップの最前線に躍り出たことは間違いなく、院内徒歩0分かつ24時間営業の不夜城が神々しいまでに夜空を照らす以上、帰り道の私は羽虫だからふらっと寄せられては夕餉を調達してしまう。値段の面でも栄養価の面でもコンビニごはんはそのマイナス性が強調されることが多いけれど、夕食をコンビニで済ませてばかりになることの最大の利点、それは周りの人たち(看護師さん、薬剤師さん、検査技師さんなど)から「あの研修医の先生はいっつもコンビニでばかりご飯を買って…」「そんなことでは栄養が偏ってしまうわ…」と憐憫の情も合わせて買えることだ。
ゆるふわコンビニ弁当で今日も愛され上手は100点満点!! オシャレ上手はこう使う! コンビニメニューの着回しコーディネート2週間♪ 女性誌のキャッチコピーみたいに頭の春めいた日々が私を待ちかまえている。手軽に夕飯を手に入れつつ堂々と母性を刺激。これすなわち鬼に金棒渡りに船。


かてて加えて私の両眼は杉花粉によりこれでもかとばかりにうるんでいるのだから、これはもう間違いない。ウルウルまぶた、かみ過ぎでぷっくり膨らみほんのり赤みがかった鼻翼、最近の乾燥でワインレッドにささくれ立った唇。こんな状態でコンビニ弁当を買い漁る姿を見て、情を寄せぬ人間などいるわけがない。ディズニー・キャラクターあるいはハリウッド・スターくらいの愛され立ち位置。夢のちやほや生活は十中八九この掌に収めたと考えてよいだろう。花粉症でホントによかった。セブンが出来てホントによかった。春が、来る…。


そんなわけで食べ物の差し入れ、待ってます。これで手作りご飯届いたらすごいなー…届くわけないわ。