智恵子

地下鉄が苦手だ。閉塞感が高い上に車窓からのぞく風景もなし、とにかく時間が単調に過ぎる。東京のメトロ・ネットワークは確かにものすごく便利だけれど、利便性と引き替えの税金とでも言えばいいのかな、乗るたびに心がすり減っていくような気がしてならない。しからば読書や音楽にいそしまん!と意気込んだところでトンネルに反響するからか得てして車音、ガタゴト響きわたる悪辣なファンファーレ、騒音の中では読みさしの本に集中しにくくiPodの音も聞こえにくい。時間に余裕のあるときは多少遠回りになるとしても極力地下鉄を使わないルートでことを運ぼうとしてしまう。


話は変わるが引っ越しをした。レジデントルーム(研修医控え室)が病院の改築工事に伴いこの度移転、清潔感あふれる新病棟へゴー・ウェスト!いや、引っ越し先は南病棟なのだけれど、その、雰囲気的にゴー・ウェスト!なのだ。
荷造りをしないといけない、ウォン・カーウァイ風に言えばマイ・ブルーベリー荷造りをしナイトいけない面倒さなどもあったがこれぞ晴れて新天地への切符。こういう作業って鬱陶しいよねぇなどとうそぶきながらごめんなさい、梱包を進める私は相当ウキウキしていました。


地下2階。これが相当なくせ者であって、時代が時代なら殿中殿中!と家老が駆け回るに違いなかろう。過労のあまりのくそダジャレで申し訳ないが、地下鉄レベルのぬるま湯な「地下度」で悲鳴をあげる身としてはまず「B2F」という表示自体が非常事態、予期不安にも似たざわめきが駆け抜けるのだ*1
窓がないのよ窓が。なにせキレイだし研修部長の先生、引っ越し担当の先生、事務職員の方々、その他大勢の人たちの助けがあって快適な環境が実現されていることには感謝してもしきれないのだけれど、日の光を感じられないのが私にはちょっと、ねぇ…。携帯が完全に圏外なのも致命傷だけれど、それよりもまずこのコンクリートうちっぱなしの彩る平素よりの閉塞感に適切な対策を講じないと、ノラ・ジョーンズ風に言えばマイ・ブルーベリー講じナイトいけない。


かの高名な詩人の妻は、東京には空がマイ・ブルーベリー・無いとつぶやいたという。白い壁にみんなでお絵かき、好きな映画のポスターなど壁に彩りを与える手段、窓枠だけでも壁に掛けて「外/内って何だろう」という哲学的な問いかけを実践する現場にする手段などが考えられるが今ひとつ決定打に欠ける。このままでは部屋に入るたびに気が滅入る毎日、どうにかして状況を打開しないと、ジュード・ロウ風に言えば…。

*1:パニック発作を起こしたことなんてないから予期不安はまったきの誤用