つられてしまうの

前回のエントリでもちらりと触れたように現在私は救急部をロウテイト中である。そこで今日は病院随一の集中管理体制がしかれるIntensive Care Unit略してICUにおける日常のヒトコマを紹介しようと思う。みなさーん、院内のほがらかエピソードや研修医ナマの声が聞けるお買い得ブログはここですよー。


さてさて。医師とて人間、診療業務のあいまをぬっては日々これ毎日いそいそとトイレへ向かう。はまちのお刺身を食べるため、ましてやコーヒー豆を煎るためではなく小便や大便をするためである。ICUの一角に備え付けられた医師控え室、その最奥に職員用トイレは位置し折にふれ糞尿が垂れ流されているわけだが、そこには血の掟が3項定められている。その1、トイレ内ではまちのお刺身を食べない。その2、トイレ内ではみだりにコーヒー豆を焙煎しない。この2点に関しては遵守にそれほどの困難は伴わず、むしろ規則を犯す方がよほど難しい。病院内で生活をしていてひょっこり切り身や生豆が手にはいる可能性は?限りなくゼロに近いコードブルーである。
そして残された最後の掟、これが問題だ。その3、たとえそれが小用であったとしても便座に座って用を足さなければならない。


女性には理解しがたいかもしれないが、こちとら生まれてこの方の大部分、立位で放尿をしてきた身分。いちいちズボンを下ろし便座に腰掛ける一手間が何とも言えず面倒なのである。尿がはね床面が汚れるというのはわかる。共用のスペースにおいて皆が気持ちよくトイレを使うために必要な措置であることは私も多いに認める。そりゃそうだよ。自分の家のトイレじゃないんだから。理屈の上では理解できるのだけれどやっぱりなんだか手間だよなあ、そう思いながら救急部の2週間が経過したわけだ。


気持ちの問題はまあ良い。習慣化が胸のつかえを解消してくれるに違いなく、気が付けば何ひとつ意識せずにズボンとパンツを下ろし便座に腰掛けている自分がいることは目に見えている。ただし、便座に腰かけて用を足す際にもう一つ問題となることがある。
ゆるんでしまうのである。便座に腰掛けた状態で膀胱に溜まった尿を放出しようと腹圧をかけるとどうだろうか、なぜだか肛門もゆるんでしまうのである。これは、「便座に座っている」「腹圧がかかっている」という陰部への足し算状態に際し、「わかってるヨ、これはウンコをするときのあれだよネ!」と私の体が条件付けされてしまっていることによると思われる。あなたには想像できるだろうか。ちょっとおしっこをしにきたくらいのつもりだったのに、はたと気が付けばらかるーく排便してしまっていたときのやるせない気持ち、だらしのない肛門と対峙したときのがっかり感を。おしっこしながらウンコぼとぼとって俺はサファリパークか。インパラか。
女の人って、おしっこするとき「ついで」でウンコしちゃったりしないのかしら。


さらにひどいときなど、小便のためにトイレに入っておきながらいつの間にか気持ちが大便にシフトしており、大した便意もなかったくせに一生懸命きばっている。といった本末転倒この上ない状況に身を置かれていることもある。あるいは「無事に」つまり大便サイドからの誘惑に打ち勝ち、晴れて小便しか出さずに用を足し終わったその後で無意識のうちにトイレットペーパーをからからと。回している自分がいたりもする。それはウンコした後でしょ!男はぶるんぶるんしたら拭かなくていいでしょ!内心で自身をたしなめつつ何食わぬ顔でトイレから出るときの、二重スパイにも似たむずがゆさを何に例えれば良いのか。はまちのお刺身だろうか、あるいはローストしたてのコーヒー豆だろうか。そこに答えはあるのだろうか。


以上、ICUでの日常風景をお送りした。毎日汗をかいています。