チョコレイト・ディスコ

バレンタインに「チョコレート」が手段として採用されているのには、毎年ひっかかりを覚え続けています。義理だ友だ逆だと各種亜型はあるにせよ正統派のジャパニーズ・バレンタイン・デイは「女性が男性に思いを伝える」日なわけです。だからこそ、このチョコレートに気持ちを込めて意中のあの人に…と、ここでハートがひっかかる。チョコが好きなのはむしろ女子…意中の人に気持ちを伝えようというのに、なぜ「相手の好み」が考量に入れられてないのでしょうか。中にはチョコ好きもあるにせよ、男の大半は甘い物がそれほど好きなわけでなく「まあもらったら食べるけど、日頃自分からチョコ買ったりしないよなあ」くらいが関の山でしょう。


相手のハートをつかまんとするとき重要なのは「もらう側をいかに喜ばせるか」であるのに、つまり「何を、いかにして贈るか」といった戦略面こそがもっとも考慮されて良い局面なのに、世の女子たちは常にいつだって「どのチョコをあげるか」という受け手のニーズをまるで無視した技術論に、それこそ熱心に終始している。何という悲喜劇でしょうか。
チョコレートをもらうのは嬉しい、義理でもなんでも「きもち」をもらえること自体が嬉しい、それは事実です。揺るぎない事実です。けれども、だからこそ。チョコレートだけで恋心や日ごろの感謝を伝えるなんて勿体ない。塩からや日本酒、コカ・コーラZERO、PerfumeのDVDなど可能性は無限大です。


さてここで話はガラリと変わり、バレンタインにちなんだお買い得情報をお届けしようと思います。好きになるならPerfume好きな男に限るという話です。


Perfume好きの男を揶揄する声は多い、特に女性からの時にマイルドで時に直截な拒否反応が多いように実感しています。「アイドル好き」とか人前で言っちゃてる時点でとにかく気持ち悪い…という心理も分からなくはないですが、ときに彼女たちが発する「ええ〜、Perfumeかわいくないじゃん」という発言。これがひどい。バカなんじゃないでしょうか。
これはPerfumeが実際にかわいい/かわいくない以前の問題であって、まず何がおかしいって「Perfumeかわいくないじゃん」発言が、「かわいくないものを好きになるのはおかしい」「普通(男は)かわいいものを好きになるはず」というルックス至上主義的な発想に裏付けられているところ。なんというブラックジョーク、アンチPerfumeさんたちは「女は内面ではなく見た目」というマチズモな言説に、知ってか知らずか荷担してしまっているのです。自分で自分を不利な場所に追い込んでどうするよ、損をするのはあなたなんだよ…と、老婆心ながら忠告申し上げたいのです。


私たちは、少なくとも私は、そういった「かわいい/かわいくない」の単純な二元論でPerfumeの3人を好きになっているわけではありません。確かに彼女たちは「テレビにうつる人」たちの中で飛び抜けたルックスをたたえているわけではなく、その点においては「かわいくないじゃん」説に私も大いに賛同します*1
ところがPerfumeに宿るマジックとは恐ろしいもので、曲を聞きDVDを眺めるうちに「まあ曲は悪くないな」「あれ、けっこうかわいいなあ…」「ヤバイ、なんでか知らないけどかしゆか超カワイイ!」「かしゆか天使!」「天使!天使!天使!」へと心が転じていくのですね。そう、今や、私はかしゆかの美を信じて疑わぬ人間です。この「価値観の跳躍/越境」を、その愉悦を味わってしまうともう元には戻れません。ビールって苦いだけじゃ〜ん、ってあれ??今日のビール苦くない、いや…う、美味い!誰しもそんな経験があると思います。想像してみてください。ビールを愛せたあの瞬間の、オトナの階段をまたひとつ上がったとき特有の晴れがましさを。


Perfumeチョコレイト・ディスコ



このような「Perfume的跳躍」を経た人間をかつてニーチェは「超人」と呼びました。
超人たちは様々な価値判断において既存の因習・道徳からとっても自由です。少なくとも未だ跳躍を果たさぬ人々に比べれば、はるかに自由です。跳躍の快楽を知っているからこそ、今もなお種々の固定観念を疑い、自己の価値観をあえて揺さぶり続ける動的主体。それがPerfumeファンなのです。自分が良いと思ったものは周りがなんと言おうと好きと表明できる、気高きたましいを彼らは勝ち得ています。荒れ地に荒れ地のかがやきを見出し、石ころには石ころの美を感じ取る。
彼らはきっとみつけだすでしょう、どんな女性を前にしても「その人だけのうつくしさ」を。なぜって彼らは、実際には会ったこともないのに映像と音だけで、しかもあのPerfumeですら好きになってしまえるくらいのおめでたボーイ達なのです。何だかPerfumeをけなしているような気がしてきましたが違います。私はかしゆかの美を信じて疑わぬ人間です。


以上の考察から容易に結論づけられるとおり、Perfume好きを好きにならない手はありません。「かわいい/かわいくない」だけでなく性格や仕草、笑い方、気くばり。あなたが好意を伝えるにつけ、彼らはもちまえの「超人」的価値観でもってあなただけのうつくしさを随所に見出します。彼らのブラウン管は決して爆発しません。なんと人間的な、あまりに人間的な感性!もはやPerfume好きというだけでその人のことを好きになってもいいのでは?という気すらしてきますよね。確認しておきますが、私はかしゆかの美を信じて疑わぬ人間です。


現在は14日の14時。まだ10時間ありますから間に合います、お近くのPerfumeファンにチョコレートを。ではなかった、塩からや日本酒、コカコーラZERO、PerfumeのDVDを。バレンタインに贈るなら「チョコレート」ではなくて「他ならぬ〈あなた〉に向けた気持ち」なのではないかしら。そんな風に思うのです。

*1:かわいくないと言われるけれど、もちろんPerfumeの3人は街中にいたら相当にキュートです。そもそもPerfumeはテレビに映ることができるのですから。もしみなさんが映ったら瞬時に爆発するはずのブラウン管や液晶モニターに、不具合を生じさせることなく自身の姿を映せるのです。