ファンク

みなさんは「ファンクラビスト」をご存じだろうか。読んで字のごとく、「ファンクラブ作り」を生業とする専門職、それがファンクラビストだ。私もこの2年間は駆け出しのファンクラビスト、すなわち初期臨床ファンクラビストとして北多摩の地で日々研鑽を積んできた。全国に散った同級生たちも病棟で、居酒屋で、あるいは屋久杉のてっぺんやエゾジカの肛門のほとりでそれぞれのファンクラブ活動に精を出したに違いないと思う。
各病棟の看護師さん、その他コメディカルの方々、掃除のおばちゃん、コンビニのおばちゃん。いやーもうみんなかわいいのなんのって。見目うるわしい人、びっくりするくらい愛想の良い人、声のきれいな人、パンやケーキを焼いてくれる人、ものすごく愉快に人の悪口を言う人、午前2時から一緒に飲んでくれる人、絵に描いたようなヤンキー丸文字の人、越路吹雪の物まねが上手い人、その他数え切れないくらいに各地でに発足させた無数のファンクラブ。折に触れ行われた深夜のファン感謝デイ(魚民などで開催)。「会員番号000」はいつだって私だった。「001」すらいない会が大半だった気もするがともあれ、すばらしい病院だった。ありがとうS病院。自分で組んだスケジュールとはいえラスト2週間の飲み会ラッシュは実につらかった。花見だけでは足りないから、これからもどんどん感謝デイやりましょう。


というわけで初期臨床研修の2年間が過ぎた。修了証書を発行していただき3100円の収入印紙と共に郵送、研修終了手続きの申請を行った。お上公認の資格が研修終了するときにどうして金銭が発生する理屈があるのか。新手のオレオレ詐欺ではないかとビクビクしている。
大学卒業まで医学の勉強を面白いとおもったことなんてほとんどなかったけれど、知識とスキルが目の前の患者さんを救う場面を目の当たりにすると多少なりともモチベーションの湧くもので、刺激に恵まれながらあっという間の2年間を終えた。熱心に指導してくださる先生方ばかりだし、何より雰囲気がすばらしかった。あいさつにあふれフットワークが軽く、すてきなアイドルと愉快な同期の揃った、まさに理想の病院だった。
救急が面白かった。1次2次に頭を悩ませるのも、3次でおしっこちびりそうになりながら初療にあたるのも、カンファランスでぼっこぼこに叩かれるのも、今となっては古いアルバムの中に思い出がいっぱいだ。今の科を選んでなかったら救急だったなー、運動神経がまるで無いから絶対向いていないのだけれど。


さて4月。大学医局からの派遣という形で石原慎太郎の子分として働く、形だけは「精神科医」になった。まだ何もできない。初日の歓迎会、1年目の先生方と合流して向かったカラオケボックスで開口一番「みなさん、○○病院へようこそ!チガウカー」と発することはかろうじでできた。「お前も今日からだけどなー」というメッセージ性に満ちたみんなの苦笑いに、えもいわれぬムードを感じた。
これからは「研修中」という言い訳は通じないわけで、責任あるファンクラビストとして努力していきたい。「ファンクラブ」をテーマにあと2、3エントリ書こうと思う。