2009 上半期ベスト10 アルバム編

この前の日曜日はrocket or chiritori目当てで「音楽からとんでみる」というイベントに足を運んだ。ロケチリさんご本人から「お前の好きな「Tell Me」やってやるから来なさい」と言っていただいたら、参じぬわけにはいかない。
感想「Tell Me」は本当に名曲!(他の曲も良いんだけれどね)それと木下美紗都さんがすごくよかった。
あともうひとつ。それをある人はローファイと呼ぶし、ある人は手作り感と呼ぶかもしれない。まったり、ゆるいと称されることもあるだろう。つまり「べつに歴史に名を残したくてやってるわけじゃない」音楽。その気負いのなさやわらかさ。生活によりそうほんの少しのマジック、つまり洗いたてのシャツの生綿の手触りであったりコルク栓を上手に抜けたときの快感であったり、あるいはまさに完璧な比率で焼酎を水割りできたときであったり、そういったものと同格の「それがあるとちょっとだけうれしい」そんな音楽。その「うれしさ」がうれしいの。ってわしゃ糸井重里か。
渋谷o-nest、ラブホテル街の夕暮れを眺めながらのライブハウスにはまさにその「うれしさ」があふれていて、初対面とあって少しだけ緊張しながらかわすささやかな乾杯。良い午後だった。


さてランキング!こっからはあれだから。あたたかさとかコルクとか焼酎とか関係なく、血で血を洗う強引なランク付けを施していくから。シングルと違って、アルバムは今年発売のものから選ぶ。シングルのときと基本的には似たような人たちが出てくる。そりゃそうだ。もっときちんと聞いている方から見るとかなりベッタベタの、分かりやすくて恥ずかしいランキングだと自負している。まずは次点から。


「Many things」Seun Kuti & Fela's Egypt 80
アルトコロニーの定理RADWIMPS
「Hands」Little Boots
「Question」KIRIHITO
「TERRESTRIAL TONE CLUSTER」HANDSOMEBOY TECHNIQUE
「True Romance」The Golden Silvers


ひとことずつ。アフリカ音楽をKuti一族(フェラ、フェミ、ショーン)でしか聞いたことのない私が言うのだから間違いないことこの上なく、ショーンのこれは名盤。熱気が渦まいている。
RADWIMPS、僕が今高校生だったら死ぬほど好きだったと思う。あふれかえる無垢な言葉の数々と、的確に聞き手を射抜く滑舌の良さ。両者の同居が快い。ブーツたんはかわいい。KIRIHITOはリズムへの執着しまくりつつ遊び心を忘れない軽やかさが心地よかった。
HANDSOMEBOY TECHNIQUE、こういうセンチメンタルさに私は弱い。Golden Silvers、表題曲が白眉でありつつ、アルバム総体としてもグッド・メロディーに満ちた好盤。軽くイエモンぽい点も見逃せない。

10 「オリハルコン日和」bonobos

オリハルコン日和

オリハルコン日和


コジロー脱退、蔡色全開。「Thank You for the Music」めいたキャッチーさはなくなった。その分、生活の中にじわじわとこみ上げる幸福であり哀しみであり、そういったものの再現性がぐっと増した。音の画素数が上がったとでも言おうか。動画はライブ盤。

9 「West Ryder Pauper Lunatic Asylum」Kasabian

WEST RIDER PAUPER LUNA

WEST RIDER PAUPER LUNA


言葉は不要!イェイサー!そういうアルバム。「貧乏狂人たちの収容所」というアルバムタイトルが全て。

8 「魂のゆくえ」くるり

魂のゆくえ

魂のゆくえ

三日月

三日月


前作はヨーロッパと向き合ったくるり、今回のテーマはアメリカン・ロック。といった趣の1枚。ディランもスプリングスティーンもスライもジミヘンもストーンズチャック・ベリーも、「ロック」とその周辺領域が全部入っている。それでいて音はくるり。なんて奇妙でなんて骨太でなんて抒情的なアルバムだろう。「三日月」がアルバムに入らなかったのが残念と言えば残念だけれど、トータルでのアルバム統一感をみて納得。

7 「ハピネス!」曽我部恵一BAND

ハピネス!

ハピネス!



正直1枚目(「キラキラ!」)の方が好きだ。「キラキラ!」には「青春」の勢いとまぶしさと愚かさの中に、それを「成熟」という地点から回顧したときににじみ出る、隠し味としてのセンチメンタルがあった。今作は青春の勢いがさらに純度を増したがゆえに成熟面が薄らいでしまって、その分アルバム1枚としての「コク」が今一つ足りないように思う。
シングルベストに挙げた「ほし」だけは、「青春」と「成熟」を完全なバランスで綱渡りしている。3日寝かせたカレーなのに具はフレッシュなまま!そんな曲になっている。
動画は下のライブ盤の方がおすすめ!

6 「New OrderCurly Giraffe

New Order

New Order


冒頭に挙げた、生活に溶け込むタイプの、「うれしい」を運んでくれる音楽。その理想形。

5 「Nouns」No Age

ノウンズ

ノウンズ


甘美な夢にはなぜこうも、ディストーションとリバーブのかかりまくったエレキギターの音壁が似合うのか。シンプルなエイトビートが似合うのか。答えなんて知らないけれど、このアルバムの音は最高!

4 「Tonight」

Tonight: Franz Ferdinand (Sba2)

Tonight: Franz Ferdinand (Sba2)


フランツ3枚の中で一番好き。「予感に満ちた一夜」にふさわしいアダルトな1枚。音像は前作までと比べややシックになり、ビートは少しだけねばっこくセクシーに。どうにも大人になりきれない人間の考える空想上の「オトナ」の「チョイ悪」。それをそのまま音にしたような、まさに「チョイ悪」という語感通りのちょっとした滑稽さとユーモアが人懐っこくて好印象。
動画は「No you girls」を。こんなもんただのエロPV!だけどかっちょいいわー。

3 「This is My Sxxt」80kidz

THIS IS MY SHIT

THIS IS MY SHIT


もう大好き!このアルバム大好き!感情と感情の境界線に照準した、泣いて良いのか笑ってよいのかわからない、けれどそれが無性に心地よい、そんな曲調でありメロディ。キラキラした上モノの音選びに感じさせる一種の無邪気さ。あとは「決定的な1曲」さえあれば本当に言うことなしなのだが(他の5位以内のアルバムには全てそれがある)。
映像は動画じゃないけれど、ライブ映像は音が悪いからこっちで。ひとまずはアルバムの実質上の1曲目を紹介。後半部には新機軸も見られて、次作がいよいよ楽しみ。出すのは3年後でいいから、とびっきりのキラーチューン入りの決定打を!


2 「Wolfgang Amadeus PhoenixPhoenix

Wolfgang Amadeus Phoenix

Wolfgang Amadeus Phoenix


感動的なまでに軽い。さまざまな音楽を聞いては背景を裏読みしストーリーをでっちあげて悦に入るという、ロッキンオンでありスヌーザーによって健やかに育まれた私の悪癖も、ここではまるでお呼びがかからない。だってこの人達の音楽からは何も伝わってこないんだもの!美しいメロディと気品すら感じさせる音触の妙はどこまでも軽やかに、意味性・メッセージ性という「重力」「磁場」を無効化していく。徹底的な作為のなせる業であることは間違いない。どこまでも意図されつくした無がそこにはある。どれほどの知性と感性が注がれていることか。無意味でありながら満ち満ちた自信をのぞかせるアルバムタイトルも秀逸。
動画からたどるとライブ映像に行ける。すごい!すてきすぎる!

1 「Manners」Passion Pit

Manners

Manners



まだ出会い頭の情感冷めやらぬ今だからとはいえゼロ年代ベスト10をやってもトップ3に入るんではなかろうか、このアルバム。The Avalanches「Since I Left You」以来かも…!
ニキビの似合う甘酸っぱさ、シニカルな視点、夢心地の恋物語、労働をひととき忘れる週末の夜、そしてブルーマンデー、背景を通奏するうす曇りの空、めいっぱいのシングアロング。
「あたたかで甘い夢」の心象風景は、現象論的な「私の世界」だけに夢見心地でつかの間の幸福論を与えてくれる。動画は「Sleepy Head」以外の曲を。全曲最高!