飲酒・脱抑制・携帯メール

たくさん笑うようになったり気が大きくなったり涙もろくなったり場違いな発言をしたり後先考えない行動に出たり、医学的には「脱抑制」という仰々しい名前がつけられているけれどこれってつまりお酒を飲むと人間がとてもダメになるということだ。その瞬間は実に、実に楽しかったはずなのに翌日振り返って「昨日の自分、自重…」と頭を抱えた経験は誰にでもあると思う。
二日酔と共に訪れる昨夜の失言や奇行への後悔。ああ、やっちまった…。なんで俺昨日いきおいだけで奢っちゃったんだろう…(財布の残金を見てビックリ!)。なんで俺昨日初対面の人に愉快な気持ちでマグロのお刺身投げつけちゃったんだろう…。なんで俺たち昨日ベランダから好きな人の名前を叫びあって大家さんに怒鳴りこまれたりしちゃったんだろう…。全部実際にあった話だから困る。


そして携帯メール、これが問題だ。飲酒にまつわる一番の鬼門と言っても良い。げに恐ろしきは翌朝ひらく送信ボックス。
内容が支離滅裂なのは構わないさ酔っぱらってたんだから。ああー昨日は酔ってたからなあくらいのもので。むしろ問題なのは文面に宿るテンションでありムード。日頃はほとんど使わない絵文字が大量にきらめき、語尾もなんだかかわいらしい。無性に恋しちゃってる感が出ていたり(恋しているわけでなくても!)日頃絶対そんなことしないのにひたすら甘えてみていたり、残念なくらいに甘酸っぱいことになっている。おそろしい殺傷能力。甘酸っぱさに勝る凶器(狂気)はない。き、貴様どの面下げて!昨日の自分を満タンの一升瓶でなぐり殺したい。
だったらメールしなきゃいいんだ、飲んだらメール禁止!飲んだらメール禁止!とNMKの誓いを心にきざみ宴席に臨めど酔いがまわればその決意自体が「脱抑制」されてしまうわけであって、帰路については結局いつもの通りに電車がたごとメールかたかた。もはや世界に存在しないのではないか、この「愚行」を止める術は。
明けて翌日、脱抑制メールを見たときのいてもたってもいられなくなって意味なく冷蔵庫あけるとか水道の蛇口をひねってすぐ止めるとか、やり場のなさをなだめすかすためだけのあてのない行為に身を染めるあの感じ。それをブログにしたためつつお尻がムズムズしてきた私はまさに今、「ああああああああああああああ…」と大量の「あ」でエディタを埋め、それを消すことで何とか気を静めた。思い出すだけでこの破壊力。酔った翌日の送信ボックス、おそろしい子…。


すごい解決策をもった人がいる。オーケストラ・サークルの後輩だった、今でもちょくちょく集まる仲間うちの女の子。彼女はこの「脱抑制メール問題」を解決するため、酔っぱらって送ったメールはその日のうちに消すことにしているのだという。
つい先日もその子を含めたいつもの仲間で楽しくお酒を飲んだのだが、次の日程どうするヨーヨーマ?みたいなやりとりの中、その子からの返信メールをあふれかえる出会い系スパム・メールと一緒に消去してしまった私は「ごめん、読む前に間違って消しちゃったんでもう一回送ってくれない」と連絡。すると「送信したメール消しちゃいましたー。夜中のメールは次の日の朝見て恥ずかしくなったら困るので、見ないように消すんです。○○みたいな内容でしたよ〜」とお返事。セルフで消去、その手があったか!


意図的にメールを消すのって何だか「不倫している部長」みたいだよなあと思いながら、確かに脱抑制問題を解決する上でこれは有用なアプローチかもしれない。恥ずかしがりようがないもんな。ただし記憶が曖昧あるいは完全に失われた状態でかたかたメールを送ってしまっているケースもままあり、その場合には「何を送ったかまったく思い出せず、かつおそらくは相当恥ずかしい感じのメールを作っているはずであるからして、かえってむずがゆい、いてもたってもいられない、死にたい」となる。でこれはやはり諸刃の剣だ。