コメ

ふたを開ければそこにはパン。パンの国からやってきたパン風味パン仕込みのにくいやつ、パン。 この絶望をどうすれば言葉にできるだろうか。ほとばしるこの遺憾の念にどの業界のハウツーが形を与えられるだろうか。
目の前に広がるメイドフロム小麦その名はコッペパン。徹夜明けですり減りかじかんだ精神をパンなどという舶来の炭水化物が癒すことなど。できるわけもない。そこは米でしょ〜。私の魂が悲鳴をあげる。言うまでもなく当直明けに供される朝食の話である。


私の勤める病院では当直の医師に夕食・朝食・昼食が供される。つまり入院中の患者さんが実際に食べている食事を「検食」という名目でいただくことができる。孤島に咲いたフードサプライ。18時半にそれぞれ院内唯一の売店と食堂が閉鎖され、日々にわかにロビンソンクルーソーの様相を呈する当院にあって夜半そして早朝のカロリー供給はただそれだけで、正義の名に値する。
しかしここで問題は、そう、朝食にパンが出ること、すなわち正義の名を借りた暴力が堂々と行使されていることだ。ベトナム・タイ・インド。「沖縄以南」と評されて久しい顔立ちの私ではあるけれど心は立派な日本人、たとえおかずがジャムとマーガリンでも構わないからせめてものお願いがある、朝食には米飯をいただきたいのだ。
てめえ朝食をなめてんのか!パンのみならずゼリーがついていた時、こういうのもシャレていて良いでしょ?な風情でサンキストの果物ゼリーが場を占めていた時、次こそは激高する自分をおさえきる自身がない。


私のこの叫びを前時代的と揶揄する向きもあるだろう。しかしこれは私だけの問題でもない。同じ食事を食べている大正生まれ・昭和1桁生まれの患者さんたちも同じ思いを抱いているに違いない。
好いた人だっていたんだけれどさ、結婚はまた色々あってねぇ。わたしがけっきょく嫁いだ旦那は農家だしハイカラな美男子なんかじゃあ全然なくって服だってちぃっともモダンじゃなかったけれど、よく働いてくれたしすごく大切にしてくれたのよぉわたしのことを。いい、先生?男は働かなくっちゃ。そうさらっと言ってのけるおばあちゃん(名前はもちろんカタカナ2文字)の朝ご飯がコッペパンやクロワッサンであって良いわけがないだろう。オムレツではなくて卵焼き、コールスローではなくてぬか漬けだろう。そこはひとつ、ご飯みそ汁に割烹着で今日1日を初めていただきたいではないか。


タダで食事をいただいておいてどの口が贅沢を言うのか!という声はあるけれど、それでもお願いだ、朝食には是非ともご飯をいただきたい。ただでさえ疲れ気味な当直明けの一日、そこでのやる気ががらりと変わってくる。朝食がどうしても洋風のセットになるならば仕方ない、私も男だ、米飯でなくて構わないから百歩譲ってライスをいただきたい。切にそう願う次第だ。誰か賛同してくれないものだろうか。