「レコ大」化してしまった…

その言葉が取りざたされ始めた時から不安はあった。路上。それは「ストリート」でなく「道ばた」でもなく、サクセスストーリーの揺籃としてある独特の意味合いを付された「路上」。今年のM-1グランプリの感想を書いている。つまり私はNON STYLEが優勝するさまをきわめて苦々しい気持ちで見ていた。このバタ臭くかつ何の新鮮味もない、しかし達者なだけにいかにもコンテスト受けしそうなあの漫才が、「路上」というまさにお涙ちょうだいの筋書きまで用意された上で、まさか優勝してしまうのではないか…。


大阪発の「路上」案件としていまもっとも成功を収めているのはまごうことなくコブクロだろう。下の下くらいのエントリにも記したが、私は彼らの音楽がとても苦手だ。嫌いということばを使っても良い。感動するためにあざとく設計されたことが見え見えの楽曲、どんなにリテラシーのない人の心にもすっと響く、時計の長針と短針がうんたらといった、小学生レベルの比喩性に満ちた歌詞。
NON STYLEの漫才はまさにコブクロとして映る。わかりやすく、悪い意味でベタベタ。面白い発想いっこもなし。「大阪」の「路上」案件であること、長身と短身のコンビであることなども手伝って、まさにコブクロにしか見えない。コブクロがレコ大をとり壇上で涙したように、あの面白くない長身の人はM-1を制して壇上で思いくそ嗚咽していた。ごめん、コブクロの人が泣いたのかどうかは知らないけれど、とにかくあの無遠慮な泣きっぷりがお茶の間に笑いを振りまく人間としての覚悟のなさをこれでもかと示しているようで何だかつらかった。余計なお世話もはなはだしいが。


NON STYLEというコンビ名でありながら、つまり「スタイルにとらわれません」という宣言をしながら、古き良き「漫才」の型を疑いもせずに遵守しているあたりからしてもうダメだ。海原雄山が激怒するタイプの寿司屋だ(美味しんぼ 69巻「寿司に求めるもの」参照)。いくら太ももを叩きながら、自身のボケに体言止めでツッコミ重ねをしてもキツいものはキツい。あれを「ボケツッコミの新しいあり方」として自慢気にアピールしてくる感じが非常に暑苦しく、かつむずがゆい。


大体あのおっきい方の人がカメラ目線をとるときに決まってする、「道化でござ〜い」みたいなちょっとおちゃらけた表情。あれ一つを見るだけで、もう絶対面白くないなこいつ。って思うもの。かしこくも人を腹抱えて笑わせようという志をもって職業に臨んでいる人間が、何のひねりもなくナイーヴにも「おもろ顔」をとること、それが笑いとして成立していると思い込んでいる悲しすぎる現実、それがもういたたまれなくて…。
サンドウィッチマンを評価する方々も多かろうが、去年の結果にも首をかしげざるを得なかった。例年になく会場の笑い声を意識する大会だった。もうM-1は、それこそコブクロではないけれど「レコ大」になってしまったのかもしれない。一番「面白い」奴を決めると銘打ちながら、結局はもっとも「大衆受けした」人が優勝しているだけ。新たな発見や突き抜けたおもしろさなどどこにもない。先々年まではたまたま「一番大衆受けした」=「一番面白かった」という幸福な図式がなりたっていた。しかしそれがどうにも去年から崩れてきている。あるいはM-1が変わってしまったのではなくて、もとから単なる「レコ大」だったのかもしれない。そして今やレコ大に在りし日の権威や夢はない。


以下、それぞれに簡単な感想。

ダイアン 91点

去年より全然よかった!いつものダイアンはきっちり面白い。ボケ方もツッコミもダウンタウンっぽ過ぎて今さら感はあるけれど、初っぱながちゃんと面白い組でよかった。

笑い飯 95点

僕は毎年笑い飯贔屓なので点数あがってる感はある。それにしたって面白いでしょう。
前々からやってる闘牛士のネタかと思わせておいて、自分たちでもコメントしていたけれど「いつものダブルボケツッコミをちゃかす」方向性に行った時点で勝ちだわーと思った。後半はきっちりダブルボケやってるし(それが爆発しきらなかったのが残念)。
この人たちだけが「漫才って何だろう」というそもそも論を抱えて漫才をやっている。「マイクの前で二人で立ってふざけてただして」という作りの必然性を考え尽くしている。だからいっつも新しいし、深い根っこのところからしっかり面白い。

モンスターエンジン 84点

漫才は初めて観た。まーぼちぼち。

ナイツ 93点

大好きです。小ボケの連発の中で、いっこいっこのボケの大きさとか配置が実に巧みで、リズムの緩急がものすごく気持ちよい。もう少し長尺だったら後半の加速がより引き立ってもっと面白いと思うんだけどなー。
下ネタをやってやるぜ、という演芸場育ち(?)の心意気を感じて、そこもまた好感がもてた。

U字工事 92点

この人たちは「栃木」を売りに漫才をやっているように見えて、結局のところ「栃木」は「A」なんだと思う。つまり記号なの。栃木、茨城、群馬、埼玉という固有名詞を出してはいるけれど、それぞれの持つ実際の意味が大切なのではない。「A」を何より大切に思う男が「B」「C」「D」をけなしたり憧れたりとのたうちまわる姿。それそのものが面白い。そういう意味では揺るがず、かつ汎用性の高い、きわめて高いレベルで構造化された漫才だと思う。
上沼恵美子が「栃木のことをよう知らんあたしでも楽しめた」的なコメントをしていたけれど、それもU字工事の漫才のuniversalityを裏付けるものだ。

ザ・パンチ 87点

日頃から大好きなんだけど、M-1ぽくはないよなー。完全に「スベったピエロ」扱いされていたけれど、いや実際ウケていなかったけれど、M-1以外の場所につながる最高のスベり方だったと思う。NON STYLEはここでいくらウケていようが、他の場所にいったら間違いなく面白くない。ザ・パンチは絶対に面白い。その差。
この人たちしかりナイツしかりU字工事しかり、自分たちでないとできない漫才をやってる人が好きだ。

NON STYLE 87点

あれこれ書いてきたけれど、背の高い方が生理的に受け付けないだけなのかもしれない。一番の大ネタが「米粒」って…。
見ている途中は、ああー、M-1の中で見ると麒麟っぽいなー(ボケのレベルが極めて低いのだけれど、何となくマスにウケる)と思ってぼんやり見ていたけれど、だんだんと判断が「コブクロ」に入れ替わった。
このあたりから、まずいこんなのが最終決戦に残って笑い飯が落ちたらそれこそ来年からM-1観たくなくなる…。と思い始める。

キングコング 85点

去年の方がよかったなー。西野の生真面目さが悪い方に出てしまった感じ。去年はがむしゃらさがそれを打ち消していて、結構いい感じだったのに。まあNON STYLEと同じく、ボケドリルとツッコミドリルを説きまくって、判例を暗記して、その上で作られた漫才。好きじゃないです。
去年のキングコングは輝いていただけに、やばい笑い飯落ちるのかーと思っていたらキングコングが意外と空回りし、それはそれで嬉しいものの、心の底ではちょっと西野が好きなだけに残念。やっぱりNON STYLEがいらない。

オードリー 96点

若林さんがとってもお上手。「噛んだだけで面白い」という現象が、オードリーの勢いを十分に表していたと思う。漫才の「型」をいかんとも形容しがたいところが何とも言えず魅力的だった。
ここで笑い飯が落ちて、優勝はNON STYLEじゃなかったらどっちでもいいやと思う。

最終決戦

ナイツがよかった。いつも観ている完成されたネタ。眼鏡を一本目からひっぱってこれたあたりの懐の深さも良い。残った3組から選ぶんだったら文句なく優勝。
NON STYLEは本当に…。相変わらずテンション高く30点くらいのボケを連発していらっしゃって…。一番の大ボケが今度は「電灯」とは…。南無。下手したら歴代優勝者の中でますだおかだより芽がないんじゃないかと思われる。
オードリーは一発目の奇跡がさすがに消えてしまったのか。残念。

その他

審査員、リーダーよりはラサール石井の方がいいなあ。審査員の中でひとつも笑いをとれていなかったのはリーダーだけな気がする。他の方は短いコメントの中に笑いと批評を的確に入れていて、すごい。そして上戸彩がとてもかわいかった。