ダイアビーツ

病院実習で回ってるのが泌尿器科だから、高度に学術的な「尿」の話をするよ。


前々から気になっていたんだけど、糖尿病は英語でDiabetes Mellitusていう。Diabetesは「水がたくさん流れ出る」、Mellitusは「蜂蜜の様な」みたいな意味だってことはまあどこにでも書いてある。おしっこが近くなって、しかもその尿が甘かったら糖尿病ですよ、ってことだね。
次に、尿崩症(尿がたくさんですぎて困っちゃう病気)はDiabetes Insipidusていう。Diabetesは糖尿病のと同じ意味で、Insipidusは「味がしない」っていう意味。ものすごく薄い水みたいな尿がいっぱい出ます病ですな。
あ、糖尿病も尿崩症も泌尿器科疾患じゃないって今気づいた。泌尿器科、見事に関係なし!まあいいや。


閑話休題つまり何が言いたいかって、昔の医者は「尿がたくさんでる病気」という疾患概念を持っていて、それは極めて自然な発想だと思うんだけど、何がすげえってその疾患群の分類として「味」を大切にしてたってことでしょ。あ、味!尿の味!それってあれか、おしっこ関連の名医は「ふむふむ、尿がたくさん出てしまって困るとな?されば貴方の尿、しかと飲んでしんぜよう!カカッ!(バックで雷が光る音)、普通の尿より塩分が少ないから尿崩症じゃ!」みたいな感じで診断してたってことか。それは人間として大胆過ぎると思うのよね、その診療方法っつうか診尿方法は。ソムリエ通り越して「尿ムリエ」ですわ。そりゃ仙人口調にもなりますわ。


一流の診断医のみが名乗ることを許された「尿ムリエ」って資格はもう憧れの的でさ、ソムリエのみに装着を許された葡萄をあしらった金色のバッジあるじゃん、あと弁護士バッジとか議員バッジとか。彼ら「尿ムリエ」も議員バッジよろしく、黄金色に輝くしびんバッジとかを携えながら社会的な羨望を一手に引き受けていた可能性すらある。
お母さーん、僕何だかおしっこがいっぱい出ちゃうの…。じゃあ尿院行くわよ、あの先生に飲ませておけば大丈夫、何せしびんバッジ持ってる先生だから!みたいな会話が日常的に繰り広げられていたとしたら。もしくは、地域に根ざした「医尿」を実戦して10年20年くらいのベテラン選手になると、ちょっと前までオムツしてピーピー泣いてたあの少年の尿が「大人の味」になっているのに気づいたりして、しみじみと少年の成長に感じ入る瞬間があったのだとしたら。それはまさに医の原点ではないだろうか。尿に秘められたヒューマンドラマを垣間見た思いだ。最高だ。僕は何が何でもその職業にはつきたくない。