窓とビール

所属しているサークル(「フィル」と言います)の演奏会。会場は由緒正しき横浜武道館。ってんなわけない。横浜に武道館があるかも知らない。とにかく、横浜で演奏会。僕は大学6年生なので泣いても笑ってもこれが最後のコンサート、というか来年も学生オケをやっていたら泣くに泣けない、いや笑うしかない状況なのでそれだけは避けたいところだがそれはまた別の話だ。


途中抜けた半年間も含めてとにかく死ぬほど楽しかった。楽しくない練習もあったしやる気の出ない時期もあったけれど、いや、あったからこそ、6年間を総じた時に「楽しかった」という言葉しか浮かんでこない。すばらしき団員達に囲まれた至福のオーケストラ・ライフだったとしか言いようがない。心から、ありがとう。


打ち上げでサプライズ・プレゼントを用意してくれた人(本当にビックリ!)、別れを惜しむ言葉をかけてくれた人、寄せ書きにメッセージをくれたみんな。それは演奏にも運営業務にも何一つ貢献していないのに「甘え」で団体に混ぜてもらっているような僕にとって、身に余る光栄だった。
このフィル生活で僕に接してくれた全ての人の顔を、声を、音を、僕は一生忘れないだろう。忘れない?もちろんそれは嘘になるに決まり切った戯れ言だ。けれど、今日ここで「一生忘れない」と言うことはできる。嘘を嘘とわかってつくときに、嘘は祈りに形を変え感謝や愛情を、みなに捧げたい全てのポジティブな感情を媒介する。
僕がもらった無数の感動のお返しになどとてもならないが、みんなに一つだけ感謝の言葉を伝えたい。愛情とかどうでもいいからお金を、お金をください!どうだろう、みなさんは感じられるだろうか、両手に抱えきれぬ感謝の花束がこの嘘に込められていることを。


まあ照れ隠しはそのくらいにして(無論、お金は幾らでもくれて構わない)、演奏会中も打ち上げ中も泣きそうになりながら、何と幸福な環境にいたのかと改めて感じ入った。enjoy天狗で瓶のまま一気飲みするビールが、ひょっとしたら世界で一番美味しいお酒なのかもしれない。なぜってフィルのみんながいるからな。ああ良いこと言った。
今は工事で見られなくなってしまったが、学生会館の裏口から団室へ向かうときにのぞく部屋の明かりが好きだった。あそこにならいついても行っても許されるという「居場所」を初めてみつけた気がした(あと、5年間つとめたバイト先)。もれ出る光がどこまでもあたたかかった。
思う。サークルもバイトも、たくさん光が溢れる窓があったからこそ、ずっと続けられたのかもしれない。自分の意志でこの場所を選んだと考える僕は実は名もない小さな羽虫で、慈愛に満ちた誘蛾燈に惹かれグルグルとその周囲を飛び回っていただけなのかもしれない。ひょっとしたら。


もし将来家庭を築き、小さな家を持つことがあれば、たくさん光のもれる大きな窓を用意しよう。ビールも冷やしておこう。子供があれば、いつもめいっぱいの光で迎えよう。帰る場所には明かりと瓶ビールと笑い声が必要だ。そして経済力も必要だ。だから、お金をください。おお、意外と上手くつながった。


世界一すてきな場所と時間がフィルにはあった。フィルよ、最高の6年間を、学年を問わずすばらしき友人達を、心の充足を、本当にありがとう。フィルのみんな、寂しくなったらまた甘えさせてください。ごきげんよう