パー子

あれは19時を少し回ったあたりだったろうか。寒空の本郷通り、私は御茶ノ水方面へ向け自転車を走らせており、ふと歩道を行く友人の女性(Aさん)を見かけたのだった。Aさんもこちらに気づく。自転車にスピードもついており、またAさんの左にはその彼氏と思しきBさん(私の知り合いではない)がおり仲睦まじく腕を組んでいたため、「おおー」「じゃねー」などとせん無い挨拶を交わし私とAさんはすれ違った。周辺の地理に明るい方への参考のため言えば、五丁目のcafe de crieの前である。


その後いつものドトールにて軽く勉強や居眠りを終え閉店時間の22時に店を退出。一身上の都合(マンガ喫茶でメールチェックとブログ更新)のため御茶ノ水へ向かう必要があり、本郷通りを先ほどと同方向に自転車を進めた。いやはや切る風が悪魔のように冷たい。
ううー、さぶ。などと震えながらマフラーをきつく巻きマイ・バイシクルを進めると、はて。いるのだ。先ほどすれ違ったAさんとBさんが。向かって左がAさん右がBさんという配置、さらには腕の組み方までさっきと同じだ。やはり自転車にはスピードもついており、さらにBさんもいたため、「おおー」「じゃねー」などとせん無い挨拶を再び交わし私とAさんはすれ違った。すれ違ったアゲインをした。結局、3時間を経て同じ二人に同じ道・同じ向きで出会ったことになる。不思議なこともあるものだ。


この奇妙な事実を合理的に説明しようとすれば、二人は地球をほぼ一周して再び本郷通りにいたと考えるのが自然だろう。何せ二人は二度とも全く同じフォーメーションで私の前で現れたのだ。3時間にして地球を一周(まであと数百メートル)。速い。平均して時速13,000kmを超える脅威のスピードだ。Aさんと知り合って3年か4年になるが、彼女がそのような超人的能力をもっているとは露知らなかった。水臭い話ではないか。


理論上は「ドトールが『逆・精神と時の部屋』である」という竜宮城路線も否定しきれない。その場合彼女たちは私が鯛やヒラメの舞い踊りに興じる3時間で、つまり実世界の一ヵ月半をかけて地球を一周してきたことになる。もしそれが事実として、驚くべきは45日間も地球を周り続けた信じがたいほどの忍耐力・スタミナ、そして地球一周にかける底知れぬ情熱である。これはさすがに常軌を逸している。現実的な話ではないだろう。そもそも一ヵ月半腕を組み続けて仲違いの起こらない訳がない(お前冷え性すぎるんじゃボケ!そっちこそ掌から変な汁出すぎなんじゃアホ!など)点からもこの説は否定される。
また、今日から45日の後には第101回医師国家試験が終了しており、だとすると私は一年間路頭に迷わなければならないことなども鑑みるに、この線は徹底的に否定しておきたいところだ。


Aさんはパー子なのかもしれない。Bさんは無論パーマンだ。一人では3時間地球一周は無理でも、パータッチなるシステムを使えば何とかなるのではないか。手をつなぐとスピードが倍々ゲームというあれだ。しかしパーマンの最高速度は時速119kmらしく、上記時速実現にはパーマンが8人必要ということになる。圧倒的に人的資本が足りない。中途か派遣のパーマンが必要になる。
大体8人パーマンがいたとして、主題歌(パーマ・パーマ・パーマーン!ていうあれです)がパーマ・パーマ・パーマ・パーマ・パーマ・パーマ・パーマ・パーマ・パーマーンとなり、鬱陶しいことこの上ない。そこまでのリフレインは必要ないだろう。


かくして真相は藪の中。不思議なこともあるものだ。Aさんがここを読んでいないことを祈るばかりだ。