船を出す

パナマスエズ、海辺に作った砂の山、世にそれらのたぐいは数多あれど開通して嬉しいものといえば何をおいてもインターネット、これだろう。古代裸にいほりを移しNTTに使用を申し込んでから幾千日、ようやく解禁となった自宅からのネット環境に私はひどく興奮している。インドがぐんと近づいたときの、砂山が開通し手がふれあったときの高鳴りをおぼえている。いんたあねっと。思わずはっぴいえんど風に言ってしまうほどだ。いんたぁーねっと。思わずくりぃむしちゅー風に言ってしまうほどだ。
これでもう、ようやっと終えたお仕事の後に職場の図書室から申し訳なさそうに日記を更新することもない。きまずさに飲まれることもない。


祝いのうたが聞こえる。幸いなことに我が家から徒歩1分、古代裸イチのプレイスポット「カラオケ・タロット」から、私の家に訪れた吉事を言祝ぐほめうたが聞こえくる。日頃はその前を通るたびに裕二郎ばかりの聞こえてくるタロットも今日ばかりは更年期、老年期、そしてコンセプトが見えない行き過ぎたパーマを感じさせるに充分、けだるくくたびれ呪詛にも似たテレサ・テンが建造物ごしに漏れ聞こえてくる。これを福音といわずして何を福音と言おうか。


夜通しネットサーフィンしたいにもかかわらず明日5時半に病棟に行かないといけないからといって夢にやぶれ布団に入ることを、人は勇気と呼ぶ。発生する責任と給与を前に昼間から船をこぐわけにはいかない私。などと言いつつレジデント部屋で居眠りのひとつもする私。ああ、大人だ。はやくカラオケ・タロットの似合うロマンスグレーになりたいものだ。
今日はネットの夢でも見ながら眠ろうと思う。