餌付け

今日はみんな大好きパンダの話です、キャッチーです。*1

あれはいつだったか…気の置けない酒席でしたたかに酔っぱらいながら「だったら俺だってパンダなんだから、笹とバランの違いくらい見抜ける訳ですよ!(焼酎の水割りを机にドカン!)」と発言したのは覚えている。覚えてはいるのだけれど、文脈が全く思い出せない…俺、パンダじゃないしなあ…。と年来ずっと悩んでいたのが天からの贈りもの、ふと記憶が蘇った。そんな話をしたいと思います。

大学生(医学部でした)の時分、柄ではないと知りつつも「合コン」に出席したことが何度かあります。こじらせた自己愛と自意識の二重らせんがおりなす、過剰なまでに低い自己評価には定評のある私。「居合わせることになる女性にこんな自分を見舞わせては本当に申し訳ない…しかし、今しかないこのチャンス、男もすなる合コンなるものを体験してみたい…」などの面倒な葛藤に駆られつつ、「これは物見遊山なわけで、言ったら軽い〈ギャグ〉なんだから僕のひなどりのような自我は決して傷つかないんだ…!傷つかないんだ…!」とみっともないうわ言を碇シンジくんばりに繰り返してはパイロットスーツに身を包み、自意識を守るATフィールド全開で私は飲み屋へ赴くわけです。
そこで感じるのはいつだって「医学部」っていうワッペンの実に独特な意味付けですよね。へ〜、医学部って○○なんだ〜。そんなリアクション(リップサービス)をしてくる女子が実に多くていらっしゃる。

ひとつには僕の話が面白くなさすぎるため、相手の女子たちも「やむを得ず」の菩薩心をフルに発揮、最大公約数的な質問で無難に場をつないでいたというのがあると思います。私なんていきなりエヴァスーツ来てプシューッ…緊張と身の置き場なさからうわづった声でコ、コンニチィハァ…!なのだから、接しにくいことこの上ない。
しかしまあ「医学部」ってそんなんなんだ〜!みたいな話はやはり多いのです。そして私は気付きます、総じて私たちに(少なくとも私に)求められているもの、それは「パンダ」であると。

冗談としか言いようのない水玉模様(フレッシュマンが会社にパンダ柄のスーツを着てきた所を想像してみてください)、悪ふざけとしか思えない主食(楽しみにしていたお弁当が笹オンリーだった昼休みを考えてもみてください)などが逆転の好奇心を生み、上野動物園の一等人気はいつだってジャイアント・パンダ(学名:Ailuropoda melanoleuca)です。
パンダが笹をほおばる場面に、タイヤ遊びに興じる姿に、お客さんたちは惜しみない歓声を送ります。新入社員は揃いも揃ってパンダ柄スーツ、お昼ごはんにもたされた愛妻弁当は笹、そんな絶望の淵に立つ課長さんの顔にも自然と笑みが浮かぶでしょう。うわぁ、パンダ(学名:Ailuropoda melanoleuca)ってホントに笹なんて食べるんだねぇ〜!タイヤで遊ぶんだねぇ〜!なんつって。女子たちはふれあいコーナーで笹やりプレイにキャッキャしたりして昼下がり。かわいいじゃねえか。

閑話休題、そういった類の柵越しに供される「笹」。これが合コンたるふれあいパークでは会話の節々(笹だけにネ!)にビックリするほど差し出される。えぇ〜やっぱり、医学部とか入るのってすっごい勉強するんでしょ〜?やっぱ血ぃ見るのとか無理だとダメじゃない?なんてな具合で。
今、目の前にあるもの、それは「Ailuropoda melanoleucaとしての反応」への期待。そして私はパンダ島耕作、白黒の毛皮がそんな期待をビンビン察知します。「タイヤで遊ぶんだろうな〜」「美味しそうに笹食って、顔を手でぬぐってむはぁみたいな表情しろよ〜」という無邪気な善意、それすなわち残酷な悪意。
はいはい、だったら演じますよ…そりゃあパンダを気取りますよ。勉強しすぎてインテグラル(積分記号)見ただけでエロい気持ちになってたとか、女性の体で好きなところは点滴しやすそうな血管とか、嘘でも言いますよ。パンダ学部ですから。


スピッツ 「フェイクファー」

せっかく都合をつけてまでパンダ放牧ランドに来ていただいたのだから…せめて相手の方々に喜んでいただかなくては…期待通りのAiluropoda melanoleucaとして道化ていさえすれば…笹良し!タイヤ良し!。そういう思いで全力でパンダにいそしんだ時代がありました。私にはありました。そうその通り!今思えば、それはあらゆる意味で大失敗です。
相手側だって「本気でしていた」訳じゃないと思うのです、その手の質問を。心から知りたかったというよりは、その場を明るく楽しく心地よいものにするために執り行われる、敢えての毛づくろいとでも言いますか。たとえそれがフェイクファーだとしても、目の前の女子たちが「こちらへの興味」を質問に乗せてくれている、ならば踊ろう。私は踊ろうではないか。ダンスだよ〜、パンダンスだよ〜。
たとえイミテーションでも花は食卓をいろどります。寿司に添えられた緑が、生の笹ではなくバランでもそこに彩りが生まれます。そういう嬉しさって替えがたく大切ではありませんか。

もちろん「本当に興味をもってくれているんだな」「上辺ので聞いてるだけじゃなくて、他者を理解しようとしてくれてるなあ」と感じられる場面もごくごく少ないながらにありました(相手が何枚もウワテだっただけかもしれない)。うれしいナマ笹。そんな場面では真摯に誠心誠意をもって答えます、プシュゥー(心の防壁、白黒エヴァスーツをぬぐ音)。
別に構わないの、動物園感覚でも。唇をすり抜けるくすぐったい言葉のたとえ全てが嘘であってもそれでいいの。そう思える幸せなひととき。私をパンダ扱いして、ガンガン笹の葉っぱを与えてくれて、タイヤ遊びを要求してくれて一向に構わないのです。だいたい、ひっくり返せば男も同じ事をやっているのだし。
何つうかな、パンダごっこも悪くないんですよ決して。そこにコミュニケーションが生まれ、それで場がうるおうのなら。だから、だから一言だけ言わせて。

…だったら俺だってパンダなんだから、笹とバランの違いくらい見抜ける訳ですよ!*2

*1:facebookに書きなぐったnoteを流用しました。

*2:強がりましたすみません、モチロン実際には全く見抜けません。