第1回

菊地成孔のチアー&ジャッジ
チアーに一票(既聴)。
チアーにしろジャッジにしろ菊地成孔は音楽どうこうじゃなくて宇多田ヒカルのことが大好きだってことがとにかく伝わってきて、だったら愛情(欲望、もっと言えば性欲)をストレートに発露させた方が文章のパワーが文圧が強くて太くてすてき。


第1回だからまだまだ判断は尚早だろうけど、本来の彼の文章に見られた奔放な「破格」はやや陰を潜めていて、やや切れ味に欠けるかという印象。どんなフォーマットでも無敵に面白いのかと思えば彼とて人の子、自らが作り上げた企画のフォーマットの中で自身がまだとまどっておりまだまだチアー&ジャッジという形式は「足かせ」となっている。
特に「ジャッジ」には彼特有の「1つの文章考えてたら他の考えもぽんぽん浮かんで来ちゃって句読点で区切りながら思考があちこちに奔逸。でもそれと同時に冷静な思考がメタレベルで両者を束ね、止揚し、一流のエンターテインメントとして昇華、ヒャッホー!」という持ち味が曇り気味であったように思う。文章から思考のスピード・加速が感じられない。「ジャッジ」の形で愛情(欲望、もっと言えば性欲)を発露させるなんて彼にとってはお手のものかと思えば再び、彼とて人の子、「ダーティーダズン」は得意でも冷静な筆致で愛を伝えることに、あるいは照れくささを覚えているのではないか。好きな子に、素直に愛情を伝えることにも憎まれ口をたたくことにも長けた男が、唯一抱えた弱点は「好きな子を冷静に語ることができない」という、この企画にとっては致命的な、しかしそれゆえに何よりもこの企画の成功を約束した、アキレスの踵だった。
チアー&ジャッジ第1回はえも言えぬ逡巡や困惑がストレートに描かれた異色作として認識されるだろう。鈍い輝きに満ちた新企画だ。


とか言いながら菊地成孔の文章をこんなにたくさんタダで読めるなんてすばらしい企画!でかした菊地成孔bounce。本が出たらどうせ買うけど。