止まりそうにないねぇ

ある病院の外来。やってきた30代後半の女性。子供がなかなかできなくて、やっと授かった初めての子供。妊娠4ヶ月目に入ってお腹の赤ちゃんの体作りも一段落して、落ち着いてきた頃。2週間ぶりの検診で超音波(エコー)をあてると、赤ちゃんが元気に動き回っている。エコー越しにはっきりと。まさに文字通りの、胎動。
ずっと欲しくて欲しくてたまらなかった赤ちゃんが元気に自分のお腹の中で動いている。新たな命がそこにある。私の赤ちゃん。
その女性は声も無く泣く。嬉しくて、こみ上げて、外来のベッドの上で涙を流す。驚くほど素直に「嬉しい」っていう言葉が口からこぼれ落ちる。


検診を終えて最後、先生から「他に気になる点はありますか?」
その女性は膣からほんの少しではあるけど出血があるのが気になっている。本当にこれがラストチャンスだから、子供に何かあるのだけは嫌だから、ささいなことでも全部聞いておきたいと思う。私の赤ちゃん。先の余韻はまだ彼女の目をぬらしている。「出血は自然に止まりますか?」


先生は答えて、「うん、出血は時期が来れば止まるけど、涙はしばらく止まりそうにないねぇ」


以上フィクション。そういう断りを入れた上で書く「あたしの友達がねー、で始まる自分の恋話」的な「実は実話」とは違って、リアルフィクション。何だリアルフィクションって!まあパルプフィクションみたいなもんか。
とにかく、今日あった出来事がベースにはなってるけど、脚色しまくりなので事実じゃない。じゃないとその人の感動と涙に失礼だからホントに嘘。
それでは失礼しました。