急性腹症

ドトールと書いて人間交差点と読む、そんなヒューマンスクランブルな性分の私だ。「袖触れ合うも」ではないがドトールで隣に座る人のことがどうしても気になる。性別、年齢、身なりに口調、会話の内容。失礼とは知りつつも気がつけば、何となく脇目を振り聞き耳を立てている自分がいるのだ。
特に美人は良い。隣が美人だとそれだけで頬がゆるむし、自ずと聞き耳に込める気合いも違ってくる。心が弾む。隣がチューヤンだと無性にもの哀しい(多分)のとは対照的だ。とにかく、隣の人がかわいいとそぞろに胸のウキウキできるということを今ここに宣言したい、そのような次第なのである。今日も隣が美人さんだやったぜフッフゥー。


ただここで問題なのは昨今の急激な冷え込みおよび卒業試験における不規則な生活リズムがたたってか、私の胃腸の具合がよろしくないことだ。トイレに行きたいのだが隣は美人。この状況をどうすれば良いのだろうか。ご理解いただけるだろうかこのaiko的な乙女心。何となくどことなく、しかし確かに恥ずかしいのだ、頻繁にトイレに向かい席を立つのが。
自身の一つ右には生活感すら感じさぬ凛としたレディーが座っているというのに鳩時計のリズムでポロッポーフルッフーだなんて、申し訳ないことこの上ないではないか。八方塞がりとはまさにこのこと。肛門括約筋だけが隙あらば開こうとしているという事実が実に口惜しい。


痛い、お腹が痛い。10分に一度は猛り襲い来る激烈な腹痛と便意。欲を言えばトイレで勉強を続けたいくらいだ。肛門のカラータイマーは警報のカラータイムブルースをしきりに打ち鳴らしており、ただしかし、そんなにトイレにばかり行く、しかもきれいな人のその脇で、というのがどうにもバツが悪い。
カラータイムブルース、カラータイムブルース、次の波やってきたら。カラータイムブルース、カラータイムブルース、駆け出すよ裸足のままで…。


美里鳴り響く中めくる教科書にも身が入らなずもだえる私であったが背に腹は代えられず、結局これでもかと言うほどにトイレに行きまくった。すっきりした。迷ってないで行動に移せば良かったと後悔した。