サイコ

本日は霜月の一日づけでそれは始まった。精神科の研修。うちの病院には精神科が設置されておらず、レジデントは近隣に位置するそれはそれは大きな精神病院へ通って臨床研修をさせていただく。つまり現在の私は「日本有数の精神科病院に毎日通い、作業療法や電気けいれん療法のお世話になっている」という、字面だけ見れば相当にショッキングな、ボキャブラ天国で言えばインパク知(9,8)くらいのレベルでとんがった状況に身を置いている(もちろんそれらの治療に偏見をもってはいけない)。


その病院は極めて広大な敷地をほこり、多くの緑と心地よい風に囲まれた、非常に環境のよい立地。今までの研修は病院の中にこもりきりだったので昼間の日差しを意識する暇など全くと言ってよいほどなかったが、この精神病院では病棟を1つ移動するにもいったん外に出なくてはいけないこともあって、折に触れやさしい木漏れ日がふと心を癒してくれる。だから今なら恥ずかしがらずに言える、1万年と2千年前から愛してる。ごめん今のはさすがに恥ずかしかった。
見上げれば木々が色づこうとしている。銀杏の葉はうっすらとその色を変え始め、気の早い落ち葉がやわらかく小道を覆う。この季節のこの病院で研修できてラッキーだった。通勤の道すがら自転車で通り過ぎる女子高生のちょっと寒そうな、マフラーを巻いてみたけれどまだ本格的な冬着ではない感じ?行き交う彼女たちが吐く息の白いの白くないの絶妙な感じ?この季節のこの病院で研修できて心からラッキーだった。通勤そのものを仕事にできないだろうか、切に願う。


私が本来所属する病院が立地するのは小平市。それは多摩地区に咲いた足立区、いやさガザ地区といった様相を呈している。すなわちメンタル面での治安が全く保証されていない。ヤマハのピアノ教室は廃墟と化し近隣のピザ屋もやはり荒れ果てクモの巣が張るほどに、最寄りのカラオケ「タロット」からはいつもテレサ・テンしか聞こえこないほどに、つまり生活に文化的な余裕を全く感じさせないレベルで民度の、民度の低さが遺憾なく発揮されている。そんな街で捨て猫のようにあてどなく暮らしたこの半年間は私の心を十分に過ぎるほど荒廃させていたようだ。精神病院にあふれる緑から驚くほどの癒しを得ている自分がいる。


とにかく、その、あれだ。精神科は面白い。病棟も午後の外来もこれでもかというほど楽しかったし、相変わらず知識は全くないけれど教科書を読んでいて精神科だけは唯一楽しい。やっぱ進路は精神科かなあ。